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副業が軌道に乗っても本業は続ける。メガバンクのプロマーケターが“二足のわらじ”にこだわる理由とは

副業が軌道に乗っても本業は続ける。メガバンクのプロマーケターが“二足のわらじ”にこだわる理由とは

メガバンクでマーケティング組織を牽引する一方、社会課題に挑む事業を副業で行う春日 壯介さん。ひとつの道にとらわれないキャリアを選び取る中で、得られた気づきとは──。大企業で活躍する傍ら、理念を軸に副業を行う意義、そして“二足のわらじ”を履くことで生まれた相乗効果についてお話を伺いました。

春日 壯介

プロ人材

春日 壯介 さん

日本大学芸術学部デザイン学科卒業。新卒でソフトバンク株式会社に入社し、現在はメガバンクに勤めながら副業でSpring Sun株式会社を起業。約14年以上のWebマーケティング経験をもとに、約40名のメンバーとWebマーケティング/ユニバーサルデザイン/バックオフィス業務サポートなどのサービスを提供。2020年ビジネスシューズでデザイン賞を受賞、2024年アメリカの経営者メディアに掲載されるなど実績多数。

社内起業制度が原点となった、副業への挑戦

まずキャリアについて教えてください。大学ではプロダクトデザインを学ばれて、就職先はソフトバンクを選択されました。

日本大学芸術学部でプロダクトデザインを学んだ後、2010年にソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)に入社しました。本来はカーデザインや、医療機器、福祉用具などのプロダクトデザインに関心があったのですが、当時はリーマンショックの影響もあり、製造業界は業績が低迷している時期でした。そんな中、通信業のソフトバンクは、将来性と安定性を兼ね備えており、ここならプロダクトデザインではなくても、自分のやりたいこと見つけられると思ったのです。

入社後は、ソフトバンクの公式ホームページのディレクションや公式SNS運用、Web広告運用などBtoCのWebマーケティングを約10年、その後は小売店や飲食店向けの需要予測サービスなどBtoBの新規事業開発やマーケティングを担当しました。AIを活用したオンラインチャット接客では、約2,000プロジェクトの中からトップの評価をいただき、チームリーダーとして社長賞を受賞することができました。

大企業で活躍されている中で、なぜ副業を始めようと思ったのでしょうか?

きっかけは、社内起業制度への挑戦でした。エントリーされた中から新規事業として将来性があると認められると、会社の支援を受けて事業化できる制度です。私が提案したのは、障がいを持った人の能力と企業のニーズをマッチングするというビジネスモデルでした。

私自身、足に障がいがありますが、ビジネスマンとして社内で成果を重ねてきました。一方で、人事の現場では優秀な人材にもかかわらず、障がいがあるために採用できないという現実も目にしました。社内の施設がその方の障がいに適応していない、通勤時の安全確保が難しいというのが主な理由です。

環境や制度が整えば、やる気と能力のある障がい者がもっと活躍できる社会になる。そんな想いから構想したビジネスでしたが、数百件の応募から最終プレゼンまで勝ち残ったものの採択に至りませんでした。あきらめきれない私は、それであれば、個人でビジネスアイデアを実践して検証してみようと考え、副業を始めたのです。

最初から起業や副業を考えていたわけではなく、自分のビジネスアイデアを実現するために副業を始めたということですね。

そうです。このビジネスアイデアを社内で共有したことで、共感してくれる方や仲間が想像以上に集まってくれました。面識のない社員から突然声をかけられ「自分の子供にも障がいがある。そんな人たちが自立できる社会を実現してほしい」と、涙ながらに訴えられたこともあります。これだけ応援してくれる人がいるならば「やるしかない」と、副業を開始しました。

春日様の写真
「共にプロジェクトを進める仲間や、想いに共感し応援してくれる人が集まったことで、副業への一歩を踏み出すことができた」と春日さん。

個人名で評価される経験には、特別な達成感がある

副業はどのように始めたのですか?

地方特化型副業マッチングプラットフォームLoino(現在は「HiPro Direct for Local」)に登録して、魅力を感じた案件に応募していきました。同時に、知人や業界のネットワークを通じて声がかかることも増えていきました。

たとえば、「社内にマーケティングの専門人材がいないのでサポートしてほしい」「ユニバーサルデザインの観点から、新しい製品開発に協力してほしい」といった相談を受ける機会があり、副業の活動が広がっていきました。

2020年にはビジネスシューズのデザインで賞を受賞されていますね。

NPOのイベントで知り合った靴メーカーの社長とのご縁がきっかけでした。その方はご自身が半身麻痺を抱えながらも、「誰もが足元のオシャレを楽しめる社会を」という想いで起業された方でした。

その中で、「障がいのある方でも履きやすく、かつデザイン性を損なわない紳士用ビジネスシューズを一緒に作れないか」とご相談をいただき、共にプロダクト開発に取り組むことになりました。

このプロジェクトで賞をいただけたことは、本業とは違う達成感がありました。本業では、企業やチーム単位で成果が評価されることが多く、個人として名前が前に出ることはそう多くありません。しかし、副業で携わったことで、個人として評価をいただけました。また、プロダクトデザインという領域において、靴で賞を獲得することは憧れの一つなので、本当にうれしかったですね。

下肢障がいの方向けの紳士用ビジネスシューズ
春日さんは、下肢障がいの方向けの紳士用ビジネスシューズでデザイン賞を獲得されました。

最先端を行く大企業の環境と、副業での細やかな実務支援。双方を行き来できる“両立”の強み

副業が軌道に乗るなかで、独立ではなく本業との両立を選ばれたのは、どのような理由からでしょうか?

私が携わっているWebマーケティングの領域は、技術やトレンドの移り変わりが非常に激しく、常に新しい知識を吸収し続けなければなりません。近年は生成AIの登場により、クリエイティブも自動化される時代になってきました。

このような変化の激しい領域においては、大企業に身を置くことは大きな利点となります。最新の情報に常に触れながら、かつ、各業界でトップクラスに位置するパートナー企業や優秀な人材と共に切磋琢磨できる。そして、豊富な予算のなかで大規模なマーケティング施策を行えます。

その反面、大企業では細かな実務は広告代理店や制作会社へ依頼することが多くなります。一方副業の場合は、大企業の新規事業部門や中小企業のクライアントと直接細かな実務を進めるため、実践的なスキルを磨きながら成果を出すことが求められます。

大企業で得られる最先端の知識、副業で得られる実践的なスキルやノウハウ。この2つの経験が相乗効果を生み、私の強みとなるので、本業と副業を両立したいと思っています。

春日さんが副業を続けることによって、本業に還元できていると感じることはありますか?

先ほどもお話しした通り、大企業ではマーケティングの実務を行う機会は少なく、どのような成果が出ているかを肌で感じることが難しいのです。そこへ、私が副業で得たリアルな体験やノウハウを本業へ持ち込むことで、本業の施策に活かせています。

2023年にソフトバンクからメガバンクに転職されていますが、副業との関連性はあるのでしょうか?

ソフトバンクはとても良い会社で、人材も環境も申し分ありません。何不自由なく、最先端のマーケティングを実践できました。また、ありがたいことに社内での評判も良く、充実した日々を送れていました。

一方で、副業を通じて自分の専門性が評価され、時には本業の数倍の報酬を得ることもあったため「社内での評価と市場価値にギャップがあるのではないか」と感じるようになりました。待遇に不満があったわけではないのですが、純粋に「自分の市場価値を確かめてみよう」と思ったのが転職のきっかけです。

結果として、メガバンクに転職して、本業の年収は大きく上がりました。これも、副業の実績を含めて評価していただいた結果だと思います。

春日さんのインタビュー写真
副業をして、結果的に自分の市場価値を見直すことになったと語る春日さん。

目的の異なる“2つの居場所”があるという安心感

転職してまもなく、ご自身の会社を設立されました。その背景を教えてください。

転職によって在宅ワーク中心から、出社中心のはたらき方へ変化し、副業の実務を行うためのまとまった時間が取りづらくなりました。そこで、次は今まで上手くいっていた個人から、組織として社会貢献するフェーズに移ろうと思ったのです。

ソフトバンク時代に私に賛同して集まってくれた仲間に声をかけて、Webマーケティングとユニバーサルデザインの会社Spring Sunを立ち上げました。「This is Me(これが私だ!)」を理念に「やる気や能力のある障がい者や小さいお子さんのいる子育て中のママさん、高齢の方々と企業のニーズをマッチングする」という方針を掲げて実践しています。

個人としての副業から、組織としての副業へと転換し株式会社Spring Sunを設立。代表取締役の春日さんをリーダーとする約40名のチームで、活動を広げています。

本業と副業では、組織内での人とのかかわり方に違いはありますか?

会社員としての本業の仕事では、メンバーそれぞれが異なる想いや価値観を持ちながらはたらいています。そのため、チーム全体を気遣いながら、バランスよく物事を進めていくことが求められます。

一方副業では、私が掲げた理念や志に賛同し、それぞれがもっている能力を活かしたいという想いを持つ人たちが集まってきてくれています。たとえば、本業では投資部門に所属しながら、個人的に法律への関心が強く、行政書士の資格を取得された方がいます。その方に「うちの会社で法務を担当してみませんか?」と声をかけたところ、現在は副業で非常に生き生きと活動してくれています。

副業のメンバーは心でつながっている家族のような存在です。本業で発揮しきれなかった力を活かす場にもなっており、一人ひとりの「可能性のスイッチ」を押してあげられているような手応えを感じています。

副業として事業を運営することで、本業に対する気持ちの変化はありましたか?

副業では代表取締役として、多くの仕事を獲得してくる責任があります。本業で毎月給料を不安なくいただけていることが、どれだけありがたく奇跡的なことか深く実感できるようになり、本業の会社に対する感謝の気持ちが非常に大きくなりました。

また、副業と本業2つの居場所があることで、一方でネガティブになっても、もう一方で安らぎを得ることができます。2つの居場所があることは、収入、メンタル等さまざまな面においてリスクヘッジになっていると感じています。

春日さまの写真3
「本業と副業の両方があることで、キャリアは自ら切り拓くものだと思えるようになりました」と春日さん。

「この人生でよかった」と思えるように、自分にしかできないことを

本業と副業の〝二足のわらじ〟を今後も続けていきたいと思いますか?

人生の最終地点に立ったとき「この人生で良かった」と思えるには何が必要だろうかと考えるのですが、私は会社で昇進を重ねるだけでは満たされないのではないかと感じました。一方で、完全に独立してやっていくには、不安もあります。

やはり、大企業の一員として社会にインパクトのある仕事に携わりながら、副業で自分の信念に基づいたプロジェクトにも挑戦できる〝二足のわらじ〟スタイルが、私に合っているのだと思います。

どちらかに絞らないということが、春日さんらしさにつながっているということでしょうか?

一流のWebマーケターという観点だけでいうと、私の代わりはたくさんいると思います。しかし、一流のマーケターかつ障がいをもっている。また、それを活かしてユニバーサルデザインを実践している人はほとんどおらず、その観点では私の代わりはいません。

副業と本業の両立もそうですが、一つに絞らず、いろんな要素を組み合わせることでオンリーワンになり得るのです。誰もがオンリーワンになれる仕組みをつくり、ビジネスとして持続させることが大切だと思っています。

最後に、これから副業に踏み出したい人にアドバイスをお願いします。

会社では組織の一員として役割を果たす必要があるため、どうしても個人の得意分野や特性を100%発揮することが難しい場面があります。また、チーム単位で成果を出すはたらき方が中心になるため、個人としての実力が社会で通用するのか見えにくくなる側面もあります。

だからこそ、自分の実力や市場価値を知る機会にもなるので、興味のある分野で副業に挑戦してみてほしいです。会社員とはまた違った世界がそこには広がっています。

副業を始める際は、「収益」よりも、「自分が本当に実現したいこと」を明確にすることが大事だと思います。たとえば「世界一かっこいい車を作りたい」「フードロスをなくしたい」「日本の良さを世界に広めたい」など、情熱を注げるテーマであれば何でも良いと思っています。

それを実現するための理念や想いを恥ずかしがらずに発信することで、共感してくれる仲間が自然と見つかるでしょう。信念をもって発信し、仲間とともに進めば、想像以上に多くのことが実現できるはずです。

春日様の写真4
「本業と副業。それぞれの面白さを感じられる〝二足のわらじ〟スタイルを実践してみて下さい」

※ 所属・肩書および仕事内容は、取材当時のものです。