
HiPro Direct インタビュー一覧
HiPro Directを通じて、大学の研究技術の事業化支援を行っている松長さんにインタビューしました 。副業を始めるきっかけや、その中で得られたやりがい、副業のメリットなどについて詳しくお聞きしました。
副業者
松長 卓志 さん(インタビュー時:30代後半)
お仕事: イーコマース企業のプロダクトマネージャーとして事業開発に従事。自身の会社を経営しつつ、大学の職員として大学発スタートアップの支援業務も行う。 副業歴:ディープテック領域の事業開発を中心に、約10件の支援をご経験。
本業では、イーコマース企業のプロダクトマネージャー(PM)として事業開発を担当しています。それと並行し、大学院卒業後に創業した会社の経営や、大学職員として大学発スタートアップ創出支援業務等を行っています。
副業を始めた一番の理由は、自分の専門性をより実践的かつ多面的に磨きたいと考えたためです。事業開発の仕事は、戦略立案、マーケティング、組織開発、ファイナンスなどさまざまな要素が絡み合う総合格闘技的な領域だと思っています。だからこそ自分の専門領域に閉じず、社外での活動を通して多様な業界や立場の人々と関わることでスキルを立体的に鍛えたいと考えました。
私は元水泳部なのですが、世界大会で何度も優勝経験のある競泳選手が、水泳のパフォーマンス向上のため、練習にボクシングを取り入れていたという話に強く共感しています。一見関係ない経験が、本質的な成長や成果につながると感じています。
また、研究開発型のスタートアップ支援人材を育成するプログラムへの参加を通じて、ディープテック領域のスタートアップ支援への理解と関心が深まりました。2022年以降は、大学発スタートアップの支援活動にも積極的に取り組むようになりました。
平日の日中は、会社員として本業に集中し、勤務時間外の朝や夜、週末に他の業務や副業を行っています。
具体的には、夜の0.5~2時間ほどを実務的な業務に充てています。ゆっくりと時間のとれる週末には、思考系のタスクに向き合うことが多いです。本業に支障が出ないことを最優先にしつつ、無理なく、でも緊張感のある状態を保つよう意識して日々のスケジュールを組んでいます。
HiPro Directでは、大学の研究技術をベースにしたディープテック領域の事業化支援を担当しています。
具体的には、大学の先生方とディスカッションを重ねながら、研究成果が解決しうる社会課題や、その技術がもたらすインパクトを明らかにします。その上で、該当技術が応用可能な業界や企業群のリサーチ、市場規模や競合動向の分析、ビジネスモデルの検討などを行い、事業性の有無や出口戦略を評価します。場合によっては技術シーズに対する仮想ピッチ資料の作成や、VCや事業会社との接点構築に向けた支援も担当しています。
応募に際しては、依頼者の想定する課題に対して、どのような価値を提供できるのかを具体的に伝えることを重視しました。
スキルや経歴をただ並べるのではなく、「相手の抱える課題に対して、どのような貢献ができるのか」という観点から自分の強みを再構成し、面談や書類の中で言語化して伝えました。
依頼者にとって重要なのは、実績や肩書きではなく、「抱える課題を解像度高く捉え、具体的な解決策を提案してくれる人材かどうか」だと考えています。
副業を通じて得られた学びは想像以上に多く、異なる専門性や価値観を持つ人々とゼロから事業を立ち上げるプロセスは非常に刺激的でした。
企業での事業開発は、明確な目的に対してKPIやアクションを設定するのが常ですが、大学の研究者との取り組みでは、目的も優先順位も前提もまったく異なります。そのギャップに向き合う中で、相手の文脈を尊重し、対話を通じて共通のゴールを見出す姿勢が鍛えられました。
異なる環境に身を置いたことで、自分の強みや課題を客観視できるようになり、視野や判断の幅が広がりました。社内では共通認識があると錯覚しがちですが、立場によって見え方が異なることを再認識し、仕事の進め方やコミュニケーションを見直す契機にもなりました。
また、自分の知見やスキルが社外でも通用するという実感は、大きな自信につながりました。
副業を始めた当初は、時間のやりくりと頭の切り替えに苦労しました。平日や週末の限られた時間をどう使うか、優先順位のつけ方に試行錯誤がありましたが、案件を重ねる中で徐々に自分なりのリズムが整っていきました。
また、もう一つの難しさは、プロジェクト推進におけるスピード感のギャップです。研究や授業に多忙な大学側にとっては、事業化にかけられるリソースが限られることも少なくありません。一方で、私はより深い対話を通じて事業化を前進させたいという想いが強く、タイミングによってはペースのずれを感じることもありました。
そうした中で意識したのは、相手の状況やニーズに寄り添いながら、無理のないペースで信頼関係を築くことです。足並みをそろえながらも、事業化という共通目標に向けて、着実に前進できるような関係性の構築が肝要だと実感しています。
大学の先生と会社員でははたらき方や仕事に対する価値観、考え方が異なるので、極力「曖昧さ」を解消しながら業務を進めることを意識しました。言葉の意味や業務の進め方等、一つひとつ共通認識を持てるように言語化し、相手の目線に合わせて丁寧にコミュニケーションを行うことを心掛けています。
特に、自分の専門外の領域であればあるほど、相手の視点を尊重し、文脈を揃えることが大切だと考えています。丁寧な対話を通じて信頼関係を築くことが、成果にもつながると実感しています。
研究技術の事業化においては、大学の先生方との一体感が何より重要だと考えています。そのため、「先生が研究、私は事業化」と役割を明確に分けるのではなく、互いの領域に踏み込みながら、共に事業を形にしていくスタンスを大切にしてきました。
自分の経験に頼って単独で事業化を進めることもできたかもしれませんが、それでは本質的な価値は生まれません。先生方の想いや背景に寄り添い、対話を重ねることで、より深いアイデアが生まれ、結果として質の高い事業に育っていくと実感しています。
副業というと、「収入を得る手段」というイメージが先に浮かぶかもしれません。でも実際には、英語が求められる職場で語学力を鍛えるように、本業でより高いパフォーマンスを発揮するために、実践のビジネス現場で経験を積む──そんな感覚に近いと思っています。
私自身も、「自分の経験が社外でも通用するのか?」という好奇心から社外での活動を始めましたが、新しいテーマや人に触れる中で、本業では得られない視点や刺激を得ることができました。
また、本来なら一つひとつ順番に積みあげるのに何十年もかかるような経験も、副業を通じて並行して取り組むことで、短期間に複数のスキルとして身につけることができます。利息を再投資することで資産を加速的に増やしていく金融投資の“複利”のように、副業で得たスキルや経験も掛け合わさることで相乗効果が生まれます。そうした成長の積み重ねが、次の挑戦や可能性を後押ししてくれていると感じています。
そして何より、日々本業で関わる皆さんの理解や支えがあってこそ、自分の挑戦も成立しています。だからこそ、得られた気づきや学びを、社内にも積極的に共有していきたいと考えています。
副業は、単なる仕事の選択肢ではなく、視野と成長を広げる新しい学びの場でもあると思います。自分のキャリアを主体的に作り上げるために、ぜひ副業への一歩を踏み出してみてほしいです。
※ プロフィール内容および仕事内容は、取材当時のものです。