HiPro Direct Logo
副業から挑む九州・沖縄圏の大学発スタートアップ創出。「PARKS」で研究者の事業化への熱が高まっている理由とは?

副業から挑む九州・沖縄圏の大学発スタートアップ創出。「PARKS」で研究者の事業化への熱が高まっている理由とは?

九州・沖縄圏の大学発スタートアップ創出を加速させるプラットフォーム「PARKS」は、卓越した研究シーズを持つ大学の研究者と、副業として経営的視点を持つプロ人材をマッチングし、研究成果の事業化を支援しています。 本記事では、九大OIP株式会社スタートアップ共創グループのマネージャーである浦上 武雄さんと、知的財産マネジメントグループマネージャーの安部 英理子さんに、PARKSの運営体制や現状の成果、そしてプロ人材と研究者が共創するプロジェクトの具体的な事例についてお話を伺いました。研究の社会実装に挑戦する現場の取り組みをご紹介します。

浦上 武雄

九大OIP株式会社

浦上 武雄

九大OIP株式会社 サイエンスドリブンチームスタートアップ共創グループ マネージャー、博士(薬学)・薬剤師。国内外の製薬企業・バイオベンチャーで新薬の研究開発に従事。これまでの経験を活かして、日本発ベンチャー創出のために2024年10月より九大OIPに参画。

安部 英理子

九大OIP株式会社

安部 英理子

九大OIP株式会社 サイエンスドリブンチーム 知的財産マネジメントグループ マネージャー、博士(農学)。九州大学で学位取得後、関西ティー・エル・オー株式会社(現在の株式会社TLO京都)に入社し、京都大学の特許ライセンス業務に従事。2015年より福島県立医科大学で教育・研究に従事。2019年に株式会社TLO京都に再入社し、広域事業部門として国内のさまざまな大学にて、ライセンス業務や知的財産マネジメント業務を中心に、技術移転業務に従事。2023年より九州大学にて、大学知財の権利強化・ライセンス業務に取り組む。

国内外から注目される経営人材マッチング。九州・沖縄圏の大学スタートアップ支援を「まずは副業」で

「九大OIP株式会社」と、同社が参画する「PARKS」について教えてください。

浦上さん:2022年、九州大学内の産学官連携機能を強化するため、学内組織としてOIP(オープンイノベーションプラットフォーム)が設立されました。さらに、新たな産業や雇用の創出を目指して法人化し、2024年4月に九大OIP株式会社が誕生しました。

九大OIP株式会社は、大学の教育・研究の向上に資する産学官連携活動を支援する組織として2024年に設立。

PARKSは、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の大学等発スタートアップの創出に向けた事業に基づいたプラットフォームです。九州大学と九州工業大学が主幹機関となり、オール九州・沖縄圏一体でアジアとつながるスタートアップ・エコシステムの創出を目標に、現在は九州・沖縄・山口の20大学と2団体、全22機関が参加しています。参画機関だけではなく地域も巻き込んで「起業活動支援プログラムの運営」「アントレプレナーシップ人財育成プログラムの運営・開発」などに取り組んでいます。

PARKSができて3年経ち、どのような手応えがありますか?

安部さん:「PARKSは九州でやっているスタートアップの創出支援事業」として、全国的にだんだんと認知度が上がってきました。全国各地に同様のプラットフォームがある中でも注目されており、近年は自治体や大学、企業、さらには海外からも、月に数件の視察を受けています。

浦上さん:特に関心を持たれているのは、人材マッチングの分野です。九州は関東や関西のような大都市圏から離れているため、地域に専門人材が少ないことがかねてより課題でした。そこで、初めから九州に移住するのではなく、まずは副業として、遠隔地からでもリモートワークで関われるスタイルにすることで、たくさんの方がPARKSの取り組みに興味をもってくださり、実際に伴走の成果が出てきています。

九州・沖縄圏の大学発スタートアップ・エコシステム「PARKS」が、国内外問わず注目を集めていると話す、知的財産マネジメントグループの安部さん。

研究者と経営のプロ人材が各々の強みを発揮し、スピード感を持って事業化を推進する

2024年度、PARKSではプレCxO人材を募集して、かなり反響があったと伺っています。詳しく聞かせてください。

浦上さん:大学発スタートアップの創出においては、経営人材不足が課題となっています。大学の研究者には素晴らしい研究や技術があるものの、経営に関するノウハウを持っているケースは多くありません。そこで、研究者に伴走し事業化を推進する、経営的視点を持ったプロ人材を募集したところ、2024年は40人の枠に数百人の応募がありました。

関東在住の方をメインに、大学発の先端技術にご興味がある方、九州にゆかりのある方、地域活性化に興味をお持ちの方など、さまざまなきっかけで30~60代まで幅広い方々にご応募いただきました。プレCxO事務局で検討の上、それぞれの研究者のニーズを確認してマッチングを行い、プロジェクトが進んでいます。

昨年の募集で数百名の応募を受け、研究成果の社会実装が身近な存在になっているという機運を感じたと話す、スタートアップ共創グループの浦上さん。

その中でも、順調にプロジェクトが進んでいる事例を一つ教えてください。

安部さん:昨年度のPARKSで採択され、プレCxO人材と事業化に向けた取り組みを進めている研究者の事例をご紹介しましょう。先生はライフサイエンスの領域がご専門で、医療機器としての活用が期待される研究シーズをお持ちです。

当該技術の社会実装を目指したプロジェクトにプレCxO事務局から数名の人材をご紹介したところ、オンラインでの面談を経てプレCxO人材の西川さんとの出会いがあり、昨年12月から活動しています。

西川さんは本業として製薬および医療機器の分野で、製品のローンチから事業拡大まで幅広い経験を積まれており、現在は企業の代表も務めていらっしゃいます。今回のプロジェクトには副業で参画されており、先生との協業においては、両者がそれぞれの強みを発揮する素晴らしいコンビネーションで、順調に進んでいるプロジェクトだと思います。

浦上さん:先生はメーカーと連携して製品化した実績もありますが、それとは別に、自身が面白いと感じている研究を形にしたいという強い想いをお持ちでした。しかし、普段の教育や研究がお忙しい中で、スタートアップを作って、経営・開発・事業化するという先生にとって未知の取り組みも並行して進めていくというのはとても難しいことです。そこで、PARKSで経営者候補となる人材をご紹介することになりました。

一方の西川さんは、自身のこれからのキャリアを見つめ直す中で、未経験ながら関心のあるスタートアップ領域で、優れた技術を社会に届ける仕事に携わりたいと考えていたそうです。そんな折、PARKSの募集を見つけて応募されたと伺いました。

どのようにお二人でプロジェクトを進めているのでしょうか。

安部さん:プロジェクトが始まる際、西川さんは福岡で先生と直接会い、じっくりと話をすることで信頼関係を作られていました。ご自分の経験をもとに先生と「チームでやっていく」こと、最初から完璧なプランは立てられないので進みながら軌道修正していくこと、お互いの違いを理解して強みを尊重し「事業化については自分を信じてほしい」といったグランドルールを決められていました。そして、先生の考えを丁寧に聞いた上で、全体の地図を描き、事業化するためのステップを示して伴走されています。

浦上さん:西川さんはフットワークが軽く、率先して動かれているのが印象的です。企業を回り市場調査やネットワーキングをして、スタートから3か月後にはビジネスプランやベンチャーキャピタル向けの資料などを完成させていました。

イベントに登壇して先生の研究についてプレゼンする西川さん。

西川さんの支援に対し、先生はどのような反応をされていますか?

安部さん:先生は西川さんと出会い、研究開発以外は全て任せることができてありがたいと高く評価されています。西川さんがCDMO(医薬品開発製造受託機関)やベンチャーキャピタル、エンジェル投資家まで見つけてくださったことで、スタートアップ設立へ向けて大きく前進しました。エンジェル投資家からは海外市場を視野に入れた意見をいただくなど、自分ひとりで事業化を検討していた頃には描いていなかった新しい世界に一歩踏み出すことができたと喜ばれています。

西川さんの声もお聞かせください。

浦上さん:先生の研究を尊重しながら伴走支援してくださっています。先生が自分に期待しているのは「スピード感」「クオリティ」「研究開発以外の全てを任せられる」ことであると最初に確認されたとのことです。西川さんはご自身の仕事もあり限られた時間ながら、特にその3点を意識することで、法人化に向けた準備を着実に進めています。

これまでの仕事で培った知識やネットワークが、本業とは違うフィールドでも評価され、「ありがたい」と言ってもらえることで、自分が人や社会に必要とされている実感が得られると仰っていたことも印象的です。さらに、まだ世に無い、これまでの常識を変えるような先端技術の社会実装に関わるという貴重な経験ができ、非常に楽しく、やりがいを感じているそうです。

さらにプロ人材とスタートアップを創出し、社会に貢献

スタートアップの創出において、外部のプロ人材の存在は大学にどのような影響を与えていますか。

安部さん:これまで先生方に「スタートアップにご興味がありませんか」とお尋ねしても、「そんな時間はない」「経営なんてやったことがないから無理だよ」と返答を頂くことが多くありました。しかし、「PARKSで、事業計画を立てるところから伴走してくれるプロ人材をマッチングできます」と話すと、「それならやってみよう」と意欲を示され、実際に事業化に向けて進んでいる先生がたくさんいます。

浦上さん:プレCxO人材の伴走の仕方は、研究シーズによってさまざまです。西川さんのように、幅広く精力的にご対応いただいているケースもあります。一方で、先生ご自身が将来的にCEOとして起業を視野に入れているケースでは、プレCxO人材には、先生が組み立てた事業計画へのレビューや資料のブラッシュアップを中心にお願いしており、月に数時間程度、お互いにとって無理のない距離感で細く長く伴走いただいています。

安部さん:継続的にご支援いただける環境づくりのために、プレCxO人材とマッチングした後も、研究者とプレCxO人材それぞれへ、プレCxO事務局や各大学の担当から定期的にご状況を確認しています。第三者が間に入り、業務やコミュニケーションの状況を把握することで、双方にとって安心できるプログラム運用を心がけています。また、プレCxOに限らずPARKSとして採択チーム向けのインキュベーションプログラムを用意しており、専門家からのメンタリングや、事業化に必要なマインドや知識をインプットする座学やワークショップの機会も設けています。

プレCxO人材お一人に事業化の全てをお任せするわけではなく、各大学の産学連携部門、PARKS全体が一丸となって多角的に事業化を支援する取り組みを整えていることも、大学発のスタートアップ創出および研究シーズの事業化を前向きに考えられる風土の醸成に繋がっているのではないかと考えています。

また、私は知財のチームにいるため、これまでは知財特許を出したいときに先生から初めてアプローチされることが大半でしたが、最近は「スタートアップ設立も含めて相談したい」と早い段階から声をかけてもらうことが増えてきました。プロ人材とのマッチングの実績が増えたことで、事業化への挑戦のハードルを下げられたのではないかと思っています。

最後に、今後の展望についてお聞かせください。

浦上さん:PARKSの各加盟大学が、先生方からのさまざまな相談にお応えし、サポートできる体制を整えています。私たち支援スタッフも、あらゆるシーズや研究に対応できるよう、変わりゆく未来像を見据えながら学び続ける必要があると考えています。

今はスタートアップの種をまいた段階です。今後、多くの研究成果を世に出すことで社会に貢献し、九州を、そして未来を活性化していきます。

安部さん:PARKSでは、今年度もプロの経営人材を募集します。先ほどご紹介した西川さんは、このプロジェクトに飛び込んだことで、新しい出会いや経験を得ることができ、人生の彩りが増した、他の人にも強く参加をおすすめしたいとおっしゃっていました。

もちろん、事業の立ち上げには一定の覚悟が必要ですが、まずは副業として関われるため、経済的にも時間的にもリスクを抑えた挑戦が可能です。一方で、第一線で活躍する研究者とともに事業化に取り組むことで、これまでの経験やスキルを活かすだけでなく、新たな知見や人脈を広げる貴重な機会にもなります。成長のチャンスが多く、大きなメリットがある取り組みです。まずは気軽にエントリーしていただけると嬉しいです。

「少しでも興味があれば応募してほしい」と話すお二人。PARKSでは多様なプロ人材の参加を歓迎しており、門戸が広く開かれています。

※ 所属・肩書および仕事内容は、取材当時のものです。

SNS Link

facebookxlinkedinline