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【支援事例】養殖に成功した幻の魚“千年鯛”を世界で評価されるブランド魚へ導く、ブランディング戦略に迫る

【支援事例】養殖に成功した幻の魚“千年鯛”を世界で評価されるブランド魚へ導く、ブランディング戦略に迫る

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温暖な気候で海水温が安定し、湾や入り江が多い鹿児島県は、古くから海面養殖が盛んに行われてきた地域です。中でも、カンパチは全国トップのシェア(※)を誇ります。垂水市に所在する株式会社康秀も、鹿児島湾でカンパチやヒラマサを育てている養殖事業者であり、自社ブランドの「康秀の平政」「康秀の勘八」は、国内外で高く評価されています。 さらに同社は、未来に向けた一手として、漁獲高が少なく幻の魚とも言われる「千年鯛」の養殖にも着手しています。順調に養殖は進んでいますが、高値で取引される高級魚を「康秀の千年鯛」として、どのように売り出すかが、次の課題となりました。そこで、ブランディングにつながるプロモーション動画の制作をHiPro Directを通じて、プロ人材・廣庭 慎二さんに依頼しました。 本記事では、動画完成までの流れや、プロジェクトを通しての気付きなどについて、株式会社康秀の代表取締役・和田 康志さんと、プロ人材・廣庭 慎二さんにお話を伺いました。 ※出典:農林水産省「海面漁業生産統計調査(令和5年):https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kaimen_gyosei/index.html」

和田 康志

株式会社康秀

和田 康志

株式会社康秀(1978年創業)の代表取締役。祖父が創業した康秀の前身となる会社に20歳で入社し、3代続く養殖技術や、完全国産のおいしい魚を提供したいという企業理念を受け継いでいる。2022年から現職。2023年から千年鯛の養殖にチャレンジし、試行錯誤を繰り返しながら成功させた。新ブランド魚「康秀の千年鯛」は、2025年春以降、出荷予定。

廣庭 慎二

プロ人材

廣庭 慎二

ENII株式会社代表取締役。前職は、「鹿児島いいとこ鶏」を生産している、角農場株式会社(薩摩郡さつま町)の広報専任社員。飼育管理開発やシステム開発に携わりながら養鶏業の未来に挑戦している同社の情報発信、ブランディングなどを担当してきた。副業として、他の一次産業企業の写真撮影・映像制作なども並行。2025年2月、マーケティング戦略を含めたクリエイティブを実行するENII株式会社を設立し、独立した。

養殖を行っている船の写真
カンパチやヒラマサなどの養殖を行っている株式会社康秀は、千年鯛の養殖を成功させました。(写真提供:廣庭 慎二 氏)

「康秀の千年鯛」の誕生と、ブランディングにおける課題

まず、幻の魚と言われてきた千年鯛の養殖を始められたきっかけと、そこにかける思いについて教えてください。

和田氏:円安の持続、餌代の高騰などが背景にあり、確実に利益が取れる新しい魚種に挑戦したい気持ちがずっとありました。希少価値が高く、市場で高値がつく魚を探していたところ、候補として上がったのが千年鯛でした。

養殖の成功例を聞いたことがなく、データがないなかで始めた挑戦だったため、全滅する可能性がありました。それでも、自分がやらずに他の人が成功させたら悔しい、失敗してもいいからやりたいと考えて取り組みました。成功すれば、国内だけでなく、海外に輸出して高く評価される魚になるはずですから。

2023年に養殖をスタートして、餌の配合など試行錯誤を重ね、2025年の春以降には出荷できる目処が立ちました。そこで、新たに出てきた課題が新ブランド「康秀の千年鯛」の確立と、認知獲得、販売プロモーションです。養殖で安定した生産ができたとしても、高級魚としての価値を落とさずに販売する戦略が必要になったのです。

ブランド戦略を外部のプロ人材に依頼しようと思われたのはなぜですか?

和田氏:高級魚のため単価が高く、メインとなる販売対象が高級料亭やホテルのため、通常の卸とは異なる新しい販売戦略を考えなければいけません。これらの販売ターゲットへの直接的なアプローチは、ネットワークもないことから自社でやるよりもプロ人材にお願いした方が良いと判断しました。また、以前から会社のホームページのトップ画面を動画にすることで、会社および「康秀の千年鯛」のPRをしたいという希望があり、マーケティングや動画撮影の専門家に依頼したいと考えました。

千年鯛の養殖もそうですが、何事も新しいチャレンジをしたいという思いを強く持っています。私の周囲には、プロ人材を活用している方がいなかったため、誰もやっていないからこそHiPro Directを試してみたいと思いました。

康秀が養殖している幼魚期の千年鯛
康秀が養殖している幼魚期の千年鯛(写真提供:廣庭 慎二 氏)

創作意欲がかきたてられた養殖業の仕事、心動かされた生産の現場

廣庭さんが、今回のプロ人材募集に応募されたのはなぜですか?どのような部分に興味を持たれたのでしょうか?

廣庭氏:一次産業を中心にさまざまな企業の支援をしてきましたが、プロモーションを通して会社をどう変化させたいのかが明確ではないことが多く、支援のイメージが沸きづらいことが多々ありました。

一方で、康秀さんの依頼は目的が明確で、社長の和田さんの考えや、事業に対しての思いが、ギュッと詰まったプロ人材の募集ページでした。それを見た時点で、打ち合わせでは「こういうことを聞いてみたい」「こういう提案ができるだろう」と方針が浮かびましたし、ぜひ仕事をしてみたいとエントリーしました。

実際にお会いしてみると、会話がしやすいようフランクに接してくれました。従業員さんとのコミュニケーションの取り方を見ても、人に好かれる方なんだなという印象を抱き、感銘を受けました。だからこそ、和田さんのために、康秀のために良いプロモーション動画を作ろうと創作意欲に駆られました。

和田さんが、廣庭さんに依頼することを決めた要因はなんですか?

和田氏:第一に、同じ鹿児島県の近隣エリアで活動されていて、素晴らしいクオリティで動画を制作されている方だったからです。廣庭さんが制作された動画を見せていただき、クオリティに感動したので迷いなく決めました。

マッチングが成立すると、廣庭さんはすぐに下見に来てくれました。当社のホームページなどもよく見てくださっていたので、初回からかなり深い話し合いができたと思います。その中で、廣庭さんも「新しいことにチャレンジしていく方」なんだなと感じ、同じ想いを持った方に依頼できて本当に良かったと思いました。

―廣庭さんとしても、早く現場を見たかったのでしょうか?

廣庭氏:私の仕事の6~7割は一次産業のプロモーション動画制作ですが、魚の養殖は初めてのジャンルでした。さまざまな媒体やSNSで調べてもイメージがしにくく、とにかく一回現場を見せて欲しいとお伝えしました。

早朝、船が出ていくとこから同行し、昼ぐらいまではたらいている方々の姿、会社全体の雰囲気を見せていただいた上で、イメージを固め、構成や絵コンテをご提案しました。

プロモーション戦略を含めたコンセプトの共有、動画構成の決定など、康秀さん側と廣庭さん側で、すり合わせが難しい部分はありましたか?

廣庭氏:「康秀の千年鯛」は本来、稚魚から出荷するまでに、約3年の時間を要します。どの時期に撮影するかで映像プランが変わってくるため、プロモーションという意味では、短期間で撮影した映像でまとめるのは難しい面がありました。

ただし、康秀さんには、すでに「康秀の勘八」「康秀の平政」という世の中で評価されている魚があります。千年鯛の強みは、そうした魚と同じ環境で育っていることです。康秀という会社の信頼度を打ち出せるよう、3種の魚種と会社全体をとらえる構成を提案しました。

和田氏:最初にかなりコミュ二ケーションをとったので、イメージの齟齬はありませんでした。提案された内容や構成は期待以上で驚きましたし、すぐにOKを出しました。

依頼したのは、千年鯛のプロモーションですから、千年鯛しか映らないだろうと思っていたところ、15秒、30秒の短い動画に3種の魚と、私たちが出荷したり、餌をやったりといった場面もある構成になっていました。私の中では、できれば、会社紹介としての要素もあるとよいとも考えていましたので、想像以上の内容を見て廣庭さんに依頼してよかったと強く思いました。

―現場の空気感や、チャレンジし続ける康秀さんの企業理念を最初に共有されていたことが、作品によい影響を与えたのでしょうか?

廣庭氏:応募の段階から、和田さんの考えていること、目指していることに共感していたことは大きいと思います。

さらに現場を見学し、打ち合わせする中で「千年鯛だけに絞ってしまうと、見る人の感情を揺さぶるのは難しい」とわかってきました。やはり、和田さんや従業員さんたちが見ている風景など、私自身が見て心動かされた部分も盛り込み、新しい仕事にチャレンジしている会社だという要素を含めて構成を組み立てていくべきだと考えました。

仕事をしている風景
「康秀さんの船に乗り、仕事を間近で見ることで、動画のプランが定まっていった」と廣庭さん(写真提供:廣庭 慎二 氏)

依頼した側も、依頼を受けた側も、次のステップにつながる視点を獲得

この支援を経験して、廣庭さんご自身の成長につながったところ、今後のキャリアによい影響があるだろうと感じられた点はありますか?

廣庭氏:鹿児島県は農業も漁業も盛んです。これまで農業を中心に支援してきたため、漁業という新しいジャンルに挑戦できたことで、仕事の幅が広がったと思います。漁業の代表作ができたことで、自身の実績もバランスのとれたものになりました。

また、康秀さんの支援でドローンや水中カメラでの撮影を行いました。水中カメラを使った新しい撮影手法にチャレンジでき、映像のクオリティや有用性を再発見できたことは、今後の仕事に良い影響をもたらしてくれるだろうと思っています。

支援を受けた康秀さんにはどのような変化がありましたか?

和田氏:会社としては、営業の武器が一つ増えたことは確かです。「康秀の勘八」「康秀の平政」「康秀の千年鯛」は、どうですか?と言っても、伝わりにくかった営業先でも、動画にはかなり関心を持ってくれて、「すごいね」というところから話が始まります。

魚を販売する店舗で動画を流してもいいか?という相談も受けていて、動画を見たお客様が立ち止まって魚を買おうかなという気になってくれれば、当社としてはそれだけでも満足です。

これまで私たちは魚を育てて、仲卸に出荷するまでを仕事の範囲としていましたが、その先の店舗、お客様まで視野が広がったことは、大きな変化だと思います。

漁をする風景
プロモーション動画をきっかけに、養殖~出荷以降の販売戦略の検討も視野に入ったそうです。(写真提供:廣庭 慎二 氏)

一次産業の魅力を広く伝え、10年後、20年後に向けて可能性を広げる

鹿児島の一次産業に関わるプロ人材として、今後の目標などはありますか?

廣庭氏:私自身、鹿児島の生まれなので、まずは鹿児島の一次産業で「プロモーション戦略といえば、ここ」といった存在になっていけたらと思っています。また、依頼を受けるだけでなく、一次産業からの町おこしを実現させるなど、自分たちが起点となり一次産業ではたらく人の増加や、新しいプロダクトの立ち上げにつなげていきたいと考えています。

一次産業は、四季折々を身近に感じ、感情を豊かに動かしながらはたらける仕事です。「食」は生きていくために必要不可欠な分野ですし、歴史の長い産業だからこそ、文化を未来につないでいく仕事とも感じています。和田さんのように一次産業に新しい風を吹かそうと、意識を持って仕事に取り組んでいる方々もいます。

そんな魅力を持った一次産業に携わり、国内だけでなく海外までアプローチできたら面白いなと思っているので、今後は更に視野や行動を広げることにも注力しています。

和田氏:鹿児島の一次産業の可能性は、まだまだ広がっていくはずだと、廣庭さんと仕事をして実感しました。プロ人材の手を借りながら、魚や野菜などの新しい売り方を生み出して、鹿児島の生産物がもっと世の中に広まっていくと良いなと思います。

千年鯛という一つの魚種のプロモーションプロジェクトが、生産者にも支援者にも大きな変化をもたらしました。新たな挑戦をし続ける人同士の掛け算が、想定以上の成果を生むことを示した好事例と言えます。

鹿児島県の桜島の写真
眼前に雄大な桜島を望む漁場。「康秀の千年鯛」の名を世界に轟かせる準備が着実に進んでいます。(写真提供:廣庭 慎二 氏)

※ 所属・肩書および仕事内容は、取材当時のものです。

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