廃校となった小学校をリノベーションし誕生したインキュベーション施設「なごのキャンパス」は、愛知県および名古屋市を拠点とするスタートアップや起業家、学生などが利用し、これまで多種多様な新規事業が生み出されてきました。現在「なごのキャンパス」では、入居するスタートアップの挑戦をさらに飛躍させる一助として、プロ人材を募集しています。
そこで今回は、「なごのキャンパス」プロデューサーで自身も起業家として活躍する粟生 万琴さんに、入居企業の特徴や入居企業が抱えている課題、さらに副業人材が参画がした場合に期待できる可能性についてお話を伺いました。

なごのキャンパス 企画運営プロデューサー。株式会社LEO代表取締役 CEO。エンジニアとしてソフトウェア開発に従事した後、転職したIT人材サービス会社で名古屋の支店立ち上げや新規事業を構想するプログラムに関わる。その経験をきっかけに、新規事業の道へ。2016年に関西AIエンジニアとAIベンチャーを創業し、取締役COOに就任。2019年から「なごのキャンパス」プロデューサーを務める。武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部教授、名古屋大学 産学官連携 客員准教授。2022年3月名古屋市教育委員就任。他、三重県 DX アドバイザー、中京テレビ放送 放送番組審議会委員等を務める。

愛知県名古屋市にある「なごのキャンパス」
経営者、起業家、大企業、スタートアップ、学生、住民…さまざまな人が混ざり、刺激し合う地域に開かれた“キャンパス”
「なごのキャンパス」は「ひらく、まぜる、うまれる 次の100年を育てる学校」をコンセプトとするインキュベーション施設です。廃校となった旧那古野小学校をリノベーションし2019年にオープンしました。
大きな特徴の一つが、日常的に多様な人が混ざり合っていることです。多様な人とは、スタートアップやベンチャー、学生、フリーランス、あるいは「なごのキャンパス」の運営事業者、法人プログラム会員に登録する大企業、そして近隣に暮らす地域の人たちのこと。100年以上愛されてきた旧那古野小学校に思い入れのある人たちは、今も地域にたくさんいらっしゃいます。こうした地域の人たちと夏祭りなどのイベントを通して積極的に交流を図っているインキュベーション施設は、他にはあまりないように思います。
また、名古屋市が2020年から展開するアントレプレナーシップ教育(小中高生起業家人材育成事業)の会場になっており、参加する小中学生や高校生にはアントレプレナーシップ教育を体験できる場として知られています。
インキュベーションという言葉には「孵化させる」「成長させる」という意味があります。オープン当初こそ「小学校がオフィスになった」と認知されていましたが、年月を重ねるにつれて地域との関わりも深まり、年齢や目的などが異なる、本当にさまざまな人たちが混ざり合う場所となりました。多様な人が混ざり合い、刺激し合うことで、新しいものが生まれていく。まさに未知数の可能性が「孵化」できる環境が整っており、オープンイノベーションといわれるようなマッチングも生まれています。
大企業の法人プログラム会員を除いて約130社の会員登録があり、うち27社が入居しています。各企業の事業領域は農業、マテリアル、ディープテック、ロボットなど非常に多岐にわたり、企業規模もさまざまです。
1年生から6年生まで混じり合っている小学校をイメージしてもらうとわかりやすいと思いますが、当施設にはスタートアップもいれば、スモールビジネスを長年続ける企業や大企業も混在しています。さまざまな特徴を持つ企業がなごのキャンパスに集まっている状況は、個人的にもなかなか面白いなと感じています。
ターミナル駅である名古屋駅から徒歩8分というロケーションに低単価で拠点を構えることができるのも、スタートアップやベンチャーにとってはうれしいポイントだと思います。まずはコワーキングスペースから利用し始め、シェアオフィス、個室、教室と段階を踏んでステップアップする会員企業も珍しくありません。

コワーキングスペース「HOME ROOM」。ドロップインで利用する人も
名古屋のスタートアップ領域に不足するポジションを補うために、人材流動性の向上が不可欠
会社員時代から数えると、かれこれ15年ほど新規事業の立ち上げに携わり続けてきました。だからこそ、新規事業を立ち上げる時に人がどんな気持ちになるのか、よくわかります。スタートラインに立つことは、誰しも不安なんです。たとえスタートラインに立てたとしても、たくさんの失敗を繰り返します。失敗することを考えたら、不安に感じるのは当然だと思います。
でも失敗って、繰り返すと不思議と怖くなくなっていくんです。例えば野球未経験の人は、いきなりホームランを打てません。何度空振りしてもバットを振り続ければ、だんだんと球が当たるようになっていって、最終的にホームランを打てるようになる。空振り、つまり失敗すればするほどホームランに近づいていくわけです。
私自身、会社員時代にイントレプレナーとしてたくさんチャレンジし、めいっぱい空振りさせてもらいました。その経験をもとに伴走することで、初めてバッターボックスに立つ時の怖さを取り除いてあげたい。そんな思いで新規事業を始める人をサポートしています。
やっぱり根っこは起業家なんだなと自覚しました。起業家が集まるこの施設で支援する側を経験して、私もたくさん刺激を受けました。刺激を受けたら、また新しいことに挑戦したくなってしまって、サポーターをやっている場合じゃない、と。
イノベーターと関わる機会を増やすことで、自分自身もイノベーターに近づいていきます。言ってしまえばイノベーターが集まる場所に身を置くだけで、イノベーターになれるわけです。起業家を支援する側として刺激を受けたことで、イノベーションを生み出す施設としての可能性をより強く感じました。
サポーターは自分の専門性を活かしてアドバイスするのが一般的です。けれど私の場合は、携わったことのない事業に参画することもしばしばあります。伴走する中で一緒に事業を動かす一員になれた上に、自分で事業を立ち上げるだけでは得られない経験もできたので、すごく有意義でした。
起業家を増やしていく上で、キーワードとなるのが人材の流動性です。ヒト・モノ・カネの中で、名古屋に圧倒的に不足しているのはヒト、つまり人材です。とりわけ必要と感じるのは、エンジニア人材とBizDev(Business Development、長期的な視点での事業開発)です。具体的な職種で言えば、事業開発、営業、プロダクトマネージャー、広報などです。販売戦略的な広報ができる人材は需要があると感じています。
関東や関西などの激戦区のベンチャーやスタートアップで就業経験があり、新しいビジネスを作ったり、新製品を売ったりしたことのある人材が流入することで、名古屋のスタートアップはもっと成長すると思います。

自身がCEOを務める会社にも大手企業の社員が出向し、新規事業の伴走をしているという
はたらくのも暮らすのも、名古屋はメリットが多いまち
まず人材を必要とする人たちがいること、それに加えて暮らしやすい環境があることです。これは新しいことに挑戦したい人にとって好条件だと思います。名古屋は都市部ながら物価が安いですし、子育て支援も充実しています。個人的にも30代〜40代の子育て世代には名古屋をお勧めしていますし、周りにも愛知に拠点を移した起業家が何人かいます。
例えば大企業にお勤めの方にとって、大企業の文化とは異なるスキルや対応を求められることで、新たな学びを得られる機会になるのでは、と思います。スタートアップで求められるのはスピード感で、いち早くキャッチアップして行動できるかが重視されます。大企業で求められるスピード感とはまったく異なるでしょうし、最初は戸惑うかもしれません。
ですがインプットとアウトプットを素早く繰り返すことは、最も学びの習熟が早いとも言われています。副業でスタートアップに参画することで、新たなスキルや対応力を獲得し、専門性をより実践的に活用できるようにもなると考えます。
副業を検討されている時点で、知的好奇心を持ち合わせていると思います。知的好奇心があるからこそ、何か新しいことに挑戦したいという想いが芽生えるわけですから。副業を始めるにあたっては、まずは知的好奇心を活かしてみるというスタンスで一歩踏み出すと良いと思います。
興味をきっかけに飛び込んだ後、事業に関わりながら、冷静に続けるべきかを検討できる点も副業ならではの良さだと思います。私自身、興味があり勉強したいと思っていた材料開発分野の事業に参画したものの、専門用語がさっぱりわからず「これではお互い不幸になる」と辞退したことがあります。もちろん、副業をきっかけに大きく活躍できるケースも珍しくありません。実際に、副業で参画した人材を執行役員に任命するといった企業もあります。
本当に多種多様な事業がこの場所で生まれています。大企業では難しい挑戦も、副業という形で興味関心を持ち、関わっていくことで、事業化するノウハウを学べて、もしかしたら将来的にご自身で新規事業を立ち上げるまでになるかもしれません。学び、成長するための最初の一歩を踏み出してもらえたらと思います。

スタートアップに伴走し、ともに成長していきたい知的好奇心のある方はぜひ挑戦を(なごのキャンパス提供)
なごのキャンパスでは、スタートアップを中心に伴走していただけるプロ人材を募集しています。自身のスキルや知的好奇心を活かして入居企業とともにイノベーションを巻き起こしたい、ともに学び、成長していきたい方は、ぜひチャレンジしてみてください。
※ 所属・肩書および仕事内容は、取材当時のものです。