研究シーズの事業化が社会貢献につながる。東京都立大学が研究者に伴走するCXO人材を求める理由とは?

掲載日:2024/09/06

東京都立大学は、東京都が設置する唯一の総合大学で、7学部23学科、7研究科に約9,000人の学生が在籍し教員数は約650名と、中規模総合大学ならではの濃密かつ幅広い学びと研究の場となっています。その東京都立大学が今、力を入れているのが産学公連携による起業支援です。

学内にある数多くの研究シーズを事業化していくための仕組みづくりについて、副学長兼産学公連携センター長の堀田 貴嗣さんにお話を伺いました。

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東京都立大学

産学公連携センター長 堀田 貴嗣 氏

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産学公連携センター長 堀田 貴嗣 氏

東京都立大学理学部物理学科教授。専門は物性理論で特に遷移金属、ランタノイド、アクチノイド化合物の磁性と超伝導の理論研究を研究テーマとしている。2021年より東京都立大学副学長(研究・情報・都連携担当)、総合研究推進機構長、学術情報基盤センター長、産学公連携センター長、法人最高情報責任者(CIO)を務める。

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産学公連携スペース「TMU Innovation Hub」が開設された日野キャンパス6号館。ここから東京都立大学発のイノベーションが生まれていきます。

2023年に産学公連携イノベーションの拠点として「TMU Innovation Hub」を開設し、大学発ベンチャー創出支援に力を入れる

東京都立大学が大学発ベンチャー創出の支援をどのように行っているのか、これまでの経緯と現在の取組みを教えてください。

大学発ベンチャー支援の取り組みは、2012年度に本学が「東京都公立大学法人大学等発ベンチャー支援に関する規程」を設けたことから始まりました。「大学発ベンチャー」の定義や支援の内容を定め、現在まで累計17社の支援を行ってきました。

近年は、さらに力を入れています。東京都の支援を受けて、GAPファンドの提供、アクセラレーターやメンタリングなどによる起業サポート、会社の登記費用の負担等の施策を実施することで学内のアントレプレナーシップの気運醸成を図っています。学生に対しても、今年度から単位取得できる正規科目「アントレプレナーシップ入門」を設置しただけでなく、ビジネスアイデアコンテストも開催する予定です。


日野キャンパスの新棟には、2023年に「TMU Innovation Hub」も開設されました。

TMU Innovation Hubは、産学公連携イノベーションの拠点となる施設です。起業や経営相談の窓口を設置した他、起業を目指す個人や団体も入居可能な「インキュベーションルーム」も運用を開始しました。希望により、本学の住所で会社登記することも可能です。


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近年、大学発ベンチャー創出の動きが活発になっていると話す堀田さん。

大学発ベンチャーは、大学の社会貢献の一つの形。東京都立大学だからこそ、できることがある

大学発ベンチャーの気運は各大学で盛り上がっていますが、学内の研究を事業化する意義はどのような ところにあるとお考えでしょうか。

大学の使命は当然、教育と研究にあります。これに加えて、近年特に重要視されているのが「社会貢献」です。大学は社会的な存在のため、社会とのつながりは切っても切れないと私は考えています。

現在、世界には多くの問題、将来への不安があります。大学でなされている研究の成果が新しい技術、サービスを生み出し、社会課題の解決を目指すことは、大学の大きな役割であり社会貢献の形といえるでしょう。

本学は、東京都唯一の公立大学ということで、「学問の力で、東京から未来を拓く」というビジョンを掲げています。学問と研究をこれまで以上に推し進めつつ、大学は社会的な存在であることを意識しながら、大学発ベンチャー創出支援を通して社会に貢献していくということです。単なる題目ではなく、実質的に意味のあることをやっていくことが重要です。

東京都立大学で、大学発ベンチャーを創出する場合、どのような点に特色がありますか。

本学は、7学部23学科・7研究科に約9,000人の学生が在籍し、教員数は約650名。中規模大学だからこその、教員と学生の距離の近さがあります。私が所属する物理学科であればほとんどの人の顔がわかるので、コミュニケーションが取りやすく、伸び伸びと研究できる環境があります。総合大学ですから、研究分野の広さも本学の強みといえるでしょう。

現在、世界には多くの問題、将来への不安があります。大学でなされている研究の成果が新しい技術、サービスを生み出し、社会課題の解決を目指すことは、大学の大きな役割であり社会貢献の形といえるでしょう。

強みといえる研究には、どのような分野がありますか。

広く言えば「モノづくり」分野に強みを持っています。これは私が所属している理学部だけでなく、都市環境学部でも、システムデザイン学部でも同じで、社会実装を意識した研究をしている先生方がたくさんいます。また、健康福祉学部では人材育成だけでなく、研究の面でも成果が出始めています。

東京都立大学の大学発ベンチャーの事例について教えてください。

たとえば、金ナノ粒子触媒の研究成果を機能材料として販売、製造する会社や、次世代電池の開発、研究の実用化を目指す会社などがあります。また、学生が自身の成果を活用して在学中に起業するケースも出てきています。

社会実装を目指せる研究シーズは学内に存在するので、大学側としては芽が出せるような豊かな土壌を作っていきたいと思います。

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堀田さんは、東京都の公立大学だからこその魅力があると話します。

中規模大学のベンチマークとなるように、プロ人材と協働しながら大学発ベンチャーを前進させていく

東京都立大学で、研究シーズを事業化する際に、どのような課題があるとお考えですか?プロ人材を募集する背景を含めて教えてください。

私を含め、基礎研究分野の研究者は「入口」を考えています。事業化というのは、ある意味「出口」です。大学側としては、入口(研究)から出口(事業化)まできちんとつなげることが、社会貢献の一環になると考えていますが、ここに難しさを感じています。

研究費の申請などで先生方に話しを聞く機会があるのですが、事業化を実現したいという声が増えています。しかし、研究から事業化への具体的なプロセスを描けているケースは、多くありません。

さまざまな研究シーズがあるのは間違いありませんから、あとは事業化できるよう協働し、サポートできるプロ人材の力を必要としています。事業化や経営のプロ人材からすれば、「ここにも、ここにも事業化のタネがある!」と思ってもらえる環境にあると感じています。

こんなプロ人材の方に参画してほしいというイメージはお持ちですか?

研究職である教員の専門ではない、事業の立ち上げの部分を補完できる人です。ビジネス面をお任せするというより、一緒に議論し、互いに気付きを与え合うイメージです。協働していくことに意義を感じ、やりがいを得ていただける人が参画してくれたらよいなと期待しています。

大きな成功モデルを目指すのではなく、小さくてもまず大学発ベンチャーを起ち上げ、たくさんの芽を出していく方向に進みたいと考えています。

プロ人材とともに大学発ベンチャーの創出を行うにあたり、東京都立大学としてどのようなビジョンをお持ちでしょうか?

本学のような中規模大学で、ベンチャー創出に積極的に取り組んでいる例は少なく、自治体のサポートを受けて、立ち上がっているベンチャーもそれほど多くないと思います。その意味で、本学が今後の中規模大学のベンチャー創出におけるベンチマークになるという気概を持ち、先進的な取り組みを行っていきたいと思います。

最後に、応募者のみなさまへメッセージをお願いいたします。

2012年の大学発ベンチャーの規程制定から始まり、少しずつ生まれていた起業の気運が今、本格的に高まっているところです。これは、大学運営側から無理に促していることではなく、教員や学生の中で「大学発ベンチャーは意味のあることだ!」と、積極的な姿勢の人が増えているということです。

本学では、東京都のサポートを活用しながら、いろいろとおもしろいことができるはずです。産学公連携で社会に貢献するベンチャーを生み出すチャンスだと捉え、ご応募いただけましたら、大変嬉しく思います。

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東京都立大学で生まれる豊富な研究シーズは、今後社会を変える可能性を秘めています。

東京都立大学では、研究シーズの事業化、社会実装に取り組むCXO候補人材を募集しています。ご自身のスキル、経験を活かし、社会に貢献する大学発ベンチャー創出に、ぜひチャレンジしてみてください。

※ 所属・肩書および仕事内容は、取材当時のものです。

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