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全国で人口が最も少ない鳥取県が「副業の聖地」と言われるきっかけとなったのは、オンライン働き方革命「週1副社長」です。これは鳥取県内の企業を、都市部の人材がいわば「副社長」のように伴走、サポートするというものです。この試みは、数多くのメディアで取り上げられ、企業側と副業人材側の双方にメリットがあるとして注目されています。
事業を推進するのは、「とっとりプロフェッショナル人材戦略拠点」です。統括サブマネージャーとして事業の中核を担う角田 祐輔さんに、「週1副社長」プロジェクトの取り組みや可能性について伺いました。

鳥取県立鳥取ハローワーク とっとりプロフェッショナル人材戦略拠点 統括サブマネージャー。鳥取県内企業の経営課題解決のため、これまで大手企業から中小零細まで約3,000社に訪問し、都市部で活躍するビジネス人材を副業や兼業という形で鳥取県内企業と繋ぐ役割を担ってきた。

週1副社長プロジェクト立ち上げ時から携わる角田さんは、6年目を迎えた今も県内企業への訪問を欠かさず行っているそうです。
「週1副社長」を広め、ベストなマッチングのために奔走する
とっとりプロフェッショナル人材戦略拠点(以下、プロ拠点)は発足して9年目、「週1副社長」プロジェクトは6年目になります。
プロ拠点事業が目指している一つに、正社員や副業という形で都市部から地方に人材を還流するミッションがあります。しかし、鳥取県内企業の約9割の企業は、従業員が15名以下なので、いきなり都市部の優秀な人材を正社員として常勤ではたらいてもらうほどの仕事も、それに見合う待遇も用意できないのが現状です。
そこで考えたのが、スキルのある優秀な人材の力を分割して借りる=副業として関わってもらうという発想で、それが「週1副社長」プロジェクトの始まりです。副業人材は企業の課題解決のために、月額3万円・月10時間程度で関わっています。
鳥取県内企業に「週1副社長」プロジェクトの事業推進を行っています。現在は戦略マネージャー含めた4名体制で、多い月は300社を超えて企業を訪問しています。
我々が企業訪問で行っているのは、「副業人材を活用しませんか?」という単純なお声掛けではありません。経営者と対話しながら、課題の抽出や整理、棚卸しを行い、どんな人材を募集するかヒアリングして決めていきます。そのため、副業人材側は事前に「何をすればいいのか」「どんなことが期待されているのか」を把握できるため、「鳥取案件は応募しやすい」と好評をいただいています。
副業人材が関わることで、社長と組織の本来のポテンシャルが活かされる
印象に残っているのは、異業種のM&Aをした鳥取県内企業のケースです。経営陣の一人が、M&A先の社長に就任したのですが、人員が少なく社内業務の多くを社長が担い、本来の社長業に向き合う時間がありませんでした。
そこで、「週1副社長」プロジェクトを活用していただき、大手企業にお勤めの副業人材とマッチングしました。経営企画の知識を活かし、3ヶ年の経営計画の作成や事務作業のマニュアル化をして新たに雇用した人材に業務を引き継ぐなど、社長の負担を軽減。社長業に専念でできる体制を構築したことで、売り上げが前年比250%に伸び、社長も大変満足されていました。
応募者の属性としては、大手企業に在籍中、もしくは過去に在籍していた方が大半ですが、年々参加者の裾野が広がっています。副業を通して「地方創生に関わりたい」「本業以外の経験によって、スキルアップしたい」という意欲のある方がチャレンジされています。
また、スキル面では鳥取県内企業と目線合わせができる方、社長の話を親身になって聞いていただける方、アドバイスだけではなく伴走支援していただける方がマッチングし活躍されています。そして成功体験を鳥取という地方にカスタマイズして、どう活かすかを考えてくださる方との出会いを経営者は必要としています。

「週1副社長」プロジェクトでの活動イメージ。プロジェクトに参加することにより、地方創生やスキルアップにチャレンジできます。
週1副社長の成功は、副業人材の想いと鳥取県の地域性がマッチしてこそ
鳥取県内の企業にとって副業人材は欠かせない存在ですし、副業人材側にとってもチャレンジしやすいのが鳥取なのだと思います。地方創生に関わりたい、仕事のやりがいや新たな経験をしたいという思いを叶えられる場として、「週1副社長」プロジェクトが注目されたのではないでしょうか。
鳥取県には「新しい事業のアイデアが欲しい」「効率化の方法が思いつかない」「商品の効果的な売り方がわからない」「何から手をつけていいかわからない」「人手不足だけど正社員が雇用できない」といった課題を持つ中小零細企業が多くあります。しかし、人口の少ない鳥取県では、相談できる相手がなかなか見つかりません。だからこそ、副業人材はカウンターパートになり得るのです。以前、ある経営者が「副業人材は家庭教師のような存在だ」とおっしゃっていました。時には手を差し伸べてくれて、時には背中を押してくれる。そのほど良い距離感が、鳥取県内企業には合っているのだと感じています。
「お金が目的ではない人が集まる」ということでしょうか。副業人材の報酬は3万円で設定しているため「自己実現やスキルアップのため」に参加している方が大半です。企業側も「週1副社長」の伴走支援で受けるメリットに納得されています。
副業人材から「社長とともに課題解決に向かえる機会はすごく貴重」だと語っていただくことも多いです。「週1副社長」は社長の強力なサポーターとして、企業全体を動かしていける可能性もありますから。中には、「週1副社長」を経て、鳥取県内企業の取締役になったケースもあります。
そうですね、企業と副業人材との距離が近いことも魅力の一つです。親交が深まっていく中で副業人材が鳥取にいらっしゃる機会が増え、副業人材としての垣根を超えて、一緒にサウナに行ったり企業のスポーツ大会に参加したり、社員旅行に同行する方もいるそうです。
そして、能力やスキルだけではなく、人対人として親交を深め、関係性が発展した例もあります。都市部の情報系大手企業にお勤めの方が、県内の製造業を営む企業とマッチングし、課題であった若手の採用強化に取り組んでいました。対話を重ね関係が深まるにつれて他の課題も解決することになり、社内資料のクラウド化や、若手の営業担当者へのアドバイスなどに業務領域を広げた例もあります。
熱い気持ちを持つ副業人材は、マッチングした企業を「自社」や「当社」と言われたり、名刺を持って活動されたりと、企業の一員として考えてくださって、私個人としても大変嬉しく思っています。
サブマネージャーが、経営者と副業人材のマインドセットを読み解くことで、双方の相性や、期待値をすり合わせ、マッチングしたときの満足度を高めています。
また、マッチング事例をホームページに掲載し、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などメディアに出たりすることで、「週1副社長」の情報を多く発信しています。毎夏には、「とっとり副業兼業サミット」をオンライン開催し、鳥取県内企業が求めている人物像をお伝えしているので、副業人材もイメージができて応募しやすいのではないでしょうか。

「相性や想いのすり合わせを丁寧にしたい」と話す角田さん。丁寧なコーディネートの結果が、「副業の聖地」と呼ばれるに至った背景にあるようです。
鳥取の企業にとって、週1副社長は「なくてはならない存在」に
2023年度までの累計でマッチングした鳥取県内企業は530社、副業人材の応募総数は約1万2,000人でどちらも年々増加しています。また副業に対するニーズも少しずつ変化していて、より深く関わりたいというご要望も増えつつあります。現状のスキームにとらわれることなく、当拠点としてチャレンジの幅を広げていきたいと考えています。
また、VUCA時代に突入してから加速度的に情勢が変化する今、課題に対して早めに策を打つ重要さを日々実感しています。これまでサブマネージャーとして関わる中で、「週1副社長」プロジェクトを中心として、外部人材を活用しながら前向きに課題解決に取り組む鳥取県内企業と、従来のやり方を続けている鳥取県内企業との間に、少しずつ開きが生じてきました。そのギャップを少しでも埋めていくためにも「外部人材を受け入れる企業文化の醸成」をビジョンに、これからも「週1副社長」プロジェクトを推進していきたいと思います。
副業にチャレンジしたい方は、とても多いと思いますので、迷われている場合は、まず鳥取県でチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

「週1副社長」プロジェクトを支える「とっとりプロフェッショナル人材戦略拠点」のメンバー
※ 所属・肩書および仕事内容は、取材当時のものです。